夏休み中に、「あの人の本棚」というNHKのテレビ番組で、北極を犬ぞりで旅する探検家・作家の角幡唯介さんの回を見ました。北極では、思うように前へ進むことができず、犬を休ませたり、ベースキャンプやテントで休憩を余儀なくされたりすることもあります。そのため、北極へ行く前には、たくさんの本を用意して持参するそうです。
探検家としての行き詰まりを感じた時に、哲学者ハイデッガーの『存在と時間』などの本を読みまくり、その中で「対話」の話があったそうです。「対話は相手がいて初めて成り立つ。相手との関係性の中で、自分の行動がどんどん変わる」というお話もされていました。
実は、その考えは、グリーンランドで接したイヌイットの考え方に似ていると、番組では紹介されていました。「明日はどうするのか」と聞くと、イヌイットは「明日の予定はわからない。それは自然が決めることだ」と言うそうです。
「自然の中で生きることは、自分の意志で行動を決定できるのではなく、様々な関係性の中で動かないと、正しい行動にたどり着かない。それがイヌイットの哲学だと思う」。イヌイットは、常に自然と対話を繰り返し、感じながら、考えながら、その日を生きているのだなと感じました。
私も普段から、「対話」は職場でも家庭でも、生きる上で大切なものだと思っていますが、イヌイットの哲学には、保育にも共通した部分がありました。
「対話」というと、言葉を交わすことを思い浮かべますが、イヌイットと自然との関係性と同様、言葉だけではなく表情や仕草、行動など、その子の思いを五感で感じ取ることが、幼児期の子どもたちとの大切な「対話」だと思います。
赤ちゃんは誕生してすぐには言葉を話せません。泣いたり笑ったり食べたり眠ったり、さまざまな仕草や表情や行動で自分の思いを表します。周りの大人は、そうした子どもの姿から「お腹がすいたのかな」「眠いのかな」「不安なのかな」と思いを汲み取りながら、その子の成長を支えていきます。
少しずつ社会性が育ってきても、幼児期の子どもたちは、まだ言葉だけでは自分の思いを十分に表すことができません。雨が降りそうで暗くなったときに不安になったり、誰かが転んで痛そうにしていると、自分のことのように悲しくなったり。その日一日の中でも、急に機嫌がよくなったり、怒ったり、悲しんだり、子どもたちはさまざまな表情を見せてくれます。
先生たちの日々の保育は、子どもたちとの「対話」から成り立っています。「対話」は言葉だけではなく、その子の表情や仕草、動きなど、すべての姿から、その思いを読み取ることができます。
幸ヶ谷幼稚園の先生たちも、子どもたちとの「対話」を大切にしながら、日々の保育をしています。しかし、一人ひとりの思いを汲み取ることは、決して簡単なことではありません。
ご家庭と園とで子どもたちの姿を共有しながら、一緒に成長を見守っていくことができればと思っております。日々のご理解とご協力に、心より感謝しております。
これからもご家庭で、お子さんの言葉にならない思いにも、ぜひ耳を傾けてみてください。私たちも、子どもたちや保護者の皆様との「対話」を大切にしながら、一人ひとりの姿を見つめ、日々の保育をしてまいります。
2学期も、どうぞよろしくお願いいたします。
園長 木元佳代子






